ハッカーの呪いと共に生きる ~ The hacker is dead, long live the hacker!

私がWeb業界に入ったのは、ハッカーに対する憧れからです。その原体験を大事にしたいという気持ちを今でも強く持っています。

もう20年近く前になりますが、Web2.0の時代、私は傍観者でした。世界ではGoogleを筆頭として、日本でも、はてな社などが、エンジニアドリブンで個性的なサービスを生み出していました。他にもmiyagawaさんなど、個人で世界的に使われるようなOSSを開発している人もいました。書籍「ハッカーと画家」で描かれるような、ハッカーが個人技で大企業を出し抜く痛快さがありました。

そのように、WebサービスにせよOSSにせよ、同年代のハッカーが自分の技術でイノベーションを起こし、世の中に影響を及ぼしていることに羨望の眼差しを向けていたのです。

サブカル的な空気感も好ましく思っていました。西海岸のコンピュータ文化はヒッピーカルチャーの影響を受けていたのは間違いないでしょう。当時の日本でも異能とも言える才能がWeb界隈に集まってくる雰囲気がありました。

「虚業」などと揶揄されてもいましたし、就職氷河期に普通の就職活動がうまくいかなかった人たち含め、癖のある、異能的な人達が流れ着いてくる雰囲気もありました。私も新卒就活に失敗した組ですし、オタク気質も相まって、そういう雰囲気を好ましく感じていました。そういった雰囲気にあてられて、自分もハッカーになりたいと思うようになりました。

ハッカーの時代の終焉?

今や時代は変わり「ソフトウェアが世界を飲み込む」の言葉通り、世の多くのビジネスがソフトウェア中心に動くようになりました。エンジニアに限らず、様々な職種の人がソフトウェア・プロダクト開発に関わるようになったのです。

普通のエリート層も参入してくるようになり、もはやサブカル的な業界でもなくなりました。業界が成熟して優秀な人が増えるのは喜ばしいことです。より面白く、意義あることが実現できる可能性が増えるからです。反面、役割分担や細分化が進み、一人のエンジニアにサービス開発全体への目配りが求められることは減り、現実的に難しくなってきました。

近年のスタートアップでは非エンジニアのプロダクトマネージャーにエンジニアが伴走してビジネスを作り上げるモデルも増えてきました。エンジニアの市場価値が高まり、事業を立ち上げるアイデアがなくとも、研鑽した技術があれば重要なポジションにつきやすくなった。それは喜ばしいことで、私自身もその状況の恩恵に与っている側だと思っています。

ただ、そういう背景から、エンジニア自らが単独でアイデアを持ち、イノベーションを起こせるという認識を持ちづくなっている状況も感じています。エンジニアバブル崩壊のリスクが語られることも増えてきましたが、イノベーションのジレンマよろしく巨象となって先細ってしまうリスクは私も感じています。

実際、スタートアップ初期では高単価なエンジニアを採用せずにビジネスを立ち上げるケースも増えてきています。技術力をビジネスの差別化要因とはせず、コモディティ化された技術とユニークなアイデアで事業を立ち上げるやりかたです。

エンジニアとイノベーション

もちろんそういう選択肢が取れるようになった背景にはエンジニアリング技術の成熟があるため、そうして欲しくないわけでは決してありません。専業エンジニア以外でもエンジニアリングの力をレバレッジにして事業成長させられるのはエンジニアリングの本懐とも言え、喜ばしいことです。

エンジニアだけがイノベーションを起こすべきだと思っているわけではないし、エンジニア全員がイノベーションを起こせる存在であるべきだと思っているわけでもありません。人それぞれ得意なフェーズがあります。私自身も0→1よりも1→10以降のフェーズが得意で強みとしています。その上で0→1ができる人達に憧れを持ち、それもできるようになりたいと欲張りに考えているワナビーなわけです。

0→1ができる個性豊かなエンジニアたちを見てきたからこそ、エンジニアがこれからもイノベーションを起こせる人たちであってほしい。そうあれると思っているし、そこに魅力を感じてエンジニアになる人が増えてほしいとも願っているのです。そう思うのは、ハッカーの時代の空気にあてられた影響もありますが、エンジニアリングこそが世の中を動かす重要な鍵の1つだと信じているからです。実際、コードを書ければ今でも誰でもすぐにサービスを始められるのです。

一番恐れていることは、エンジニアの個性の発揮が難しくなってプロダクト開発の面白みを実感できる機会が減ってしまうこと、ひいては、画一的な動き方を求められすぎた結果、労働集約に陥って裁量を失い、市場価値も下がってしまうことです。

異能を活かすマネジメント

そういう思いもあって、私はマネジメントするとき、個性を大事にしたいと考えています。その人にしか出せない能力を最大限に活かし、それらの個性が自律的に協調し、そのチームでしか出せない成果を生み出したい。そのためにも、個性豊かなチームをマネジメントしたいし、そういうチームを組成したいとも思っています。

どういう職種であれ、自分ならではの個性を発揮しインパクトのある成果を出すことが仕事の醍醐味です。画一的になりすぎるよりも、各自が自分のユニークな専門性に誇りを持つこと、同時に自分が持っていない他者の専門性の価値を認めて敬意を払えること。そういうメンバーが揃っているチームの方が、チームワークを発揮し、想像を超えたモノを作れると考えています。

属人性の排除と冗長化は良く叫ばれますが、そもそもビジネスやプロダクトの持続性が大目的で、冗長性はそのための一つの手段に過ぎず、必須でもありません。

大谷翔平のようなプレイヤーがいたとして、彼のスキルを誰を真似できず再現性がないからと言ってチームオーダーから外す選択を取るでしょうか。むしろ、そこを差別化要素として最大化するようにオーダーを組むのが当然でしょう。彼が移籍などでいなくなったら、また別のオーダーを組めばよいのです。

それに大谷がいかにユニークな存在であっても、先のWBCでは彼に限らず、個性豊かなプレイヤー達がそれぞれの個性を発揮して、チームを優勝に導きました。私にとってはそういう戦い方が理想です。

もちろん、属人性が高い状況では、当人が孤独に陥ったり、その人への依存度が高まり硬直化してスピードが損なわれるといったことは起こりがちです。ただ、そうならないようにハンドリングすることがマネージャーの腕の見せ所です。属人性を排除を試みるのも一つの手ですが、解法はそれだけではありません。属人性が常に悪い訳ではありませんし、過度な属人性排除は逆効果なのです。

異能を活かすのがマネージャーの面白みで、器が問われるところです。最近、"Brilliant Jerks"という言葉が安易に使われることに懸念を感じています。もちろん他者へのリスペクトに欠け、攻撃的な態度を取るのは大問題です。

空想上のペルソナなのはわかるのですが、実際に他者を"Brilliant Jerks"呼ばわりすることがあれば、それ自体がリスペクトに欠けた攻撃的な態度になりかねないでしょう。そして、自分たちが受け入れられない人に対するレッテル付けとして悪用していないか、実はマネージャーや会社の器不足が問題なのに他責しているのではないかが気になるのです。

「こういう人は受け入れられない」というのは排斥のニュアンスを感じます。ここはエンジニアらしく、こういう態度は良い、良くないという「振る舞い」に着目して対話をしたい。その上で器を広げ、受け入れられる人を増やしていきたいところです。

僕自身はエンジニア一本で生きていこうとは思わなくなりました。マネージャーか現場のエンジニアか等は状況に合わせて振り子/螺旋的に選択すればいいと思っています。だからこそ、技術一本で行きたいと強い思いを持ち続けている人は支援したいと思っています。

チームワークはプロダクト開発における醍醐味ですが、近年のヒューマンスキル偏重傾向には懸念を感じることがあります。私自身はヒューマンスキルを活かしながら生き残ってきました。しかし、同時に、個性豊かなハッカーがイノベーションの原動力になる世界であってほしいと願っています。自分が思い上がってそういう人たちへのリスペクトを忘れるようなことがあってはならないと自戒しています。詐欺師症候群的な言い分ですが、自分が偽物だと弁えて、本物へのリスペクトを忘れないようにしないと本当に詐欺師に堕してしまうのではないかという危機感を持っているのです。

こういう思いを持っているからこそ、私には尖った人を含めた個性豊かなチームメンバーを活かせる力があり、そこが自分の強みであるとも自覚するようになりました。実際、技術力の高いエンジニアの方々に敬意を払っていただいていると感じることも増え、ありがたいことです。そういう人たちと共に良いモノづくりをし続けていきたいと思っています。

ハッカーに対する憧れ、囚われ、呪い

こう書いていくと、私はハッカーへの憧れを越え、もはや呪いのようなものに囚われているとも言えます。それで構いません。私の好きな言葉に「人間は自由であるように呪われている」というサルトルの言葉がありますが、人間が自由に呪われているように、自分はハッカーに呪われていても良いのです。

ちなみに、私はヒューマンスキルに強みがあると述べましたが、自分が尊敬するハッカーたちで今でも一線で活躍している人達を見ると、年月を重ねてヒューマンスキルの点でも高いレベルに達している人が多いのです。つくづく敵わないな、と思いますし、彼ら、彼女らは自分にとってはヒーローなのでカッコよく有り続けてくれることは嬉しく思っています。一生到達できない高みにある目標がある、ということは幸せなことだと思うようになりました。

Long live the hacker!

補足や宣伝

ちなみに、このエントリーは、以下の寄稿記事の編集段階で削った部分を元に書いたもので、この記事のBトラックとも言うべき内容になっています。こちらも併せて読んでいただけると幸いです。

この記事タイトルにつけた「ハッカーの呪い」という言葉は、ar_tamaさんがYAPC::Kyotoでベストトークを獲得した以下の素晴らしい発表にインスパイアされたものです。

私は今、ヘンリーという会社でVP of Engineeringを務めています。イノベーションを起こせるエンジニアリング組織にしていきたいので、興味のある方は是非、採用やカジュアル面談にお申し込みください。エンジニア職のカジュアル面談は私がお話させてもらうことになります。お待ちしています。